2019-03-01 古い子守唄 人間、あるていどの歳になると、この子守唄のようなもんだなと思うようになるなあ。 ・・・。それを読んだ。子供のときから知っている古い子守唄だつた。 十人のインディアンの少年が食事に出かけた 一人が咽喉をつまらせて、九人になつた 九人のインディアンの少年が遅くまで起きていた 一人が寝すごして、八人になつた 八人のインディアンの少年がデヴァンを旅していた 一人がそこに残つて、七人になつた 七人のインディアンの少年が薪を割つていた 一人が自分を真つ二つに割つて、六人になつた 六人のインディアンの少年が蜂の巣をいたずらしていた 蜂が一人を刺して、五人になつた 五人のインディアンの少年が法律に夢中になつた 一人が大法院に入つて、四人になった 四人のインディアンの少年が海に出かけた 一人が燻製の鯡(にしん)にのまれ、三人になつた 三人のインディアンの少年が動物園を歩いていた 大熊が一人を抱きしめ、二人になつた 二人のインディアンの少年が日向に坐つていた 一人が陽に焼かれて、一人になつた 一人のインディアンの少年が後に残された 彼が首をくくり、後には誰もいなくなつた (アガサ・クリスティ、『そして誰もいなくなった』、清水俊二訳、「世界探偵小説全集」、I、昭和24年。)