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よろづ天道まかせで

産霊神

まあ宗教的なことにすぎないかもしれないが、日本人のふつうの心像風景にある神道的な世界が、いかに万物を掌る八百万、こんにちふうにいえば環境かもしれない、それを大事にしているかが、佐藤信淵の『経済要録』から理解できる。佐藤は平田神道の人間であるが、宇宙論から天の巧みを人為が開く天工開物の経済論まできわめて体系的な統治の理論を構築している。ここではうぶすめのかみとやおよろずに言及している箇所のひとつをメモしておこう。

「・・・抑々(そもそも)皇祖(こうそ)高皇(こうこう)産霊神(うぶすめのかみ)この大世界(だいせかい)を造(つく)り、伊弉(いそう)諸神(しよしん)に命(めい)じて此(こ)の天地(てんち)を修固(つくりかため)成(なさせ)給(たま)ひしことは、総(すべ)て是(こ)れ篤(あつ)く蒼生(さうせい)を愛(あい)し、此(こ)れを蕃息(ばんそく)せしめんことを欲(おもほし)給(たま)ふが為(ため)なり、故(ゆえ)に万物(ばんぶつ)を生(しよう)じて、世上(せじよう)を豊(ゆた)かにするも、皆(みな)是(こ)れ人民(じんみん)の衣食(いしよく)して、性命(せいめい)を保全(ほぜん)すべき日用(にちやう)の需(もと)めに備(そなへ)給(たま)へる所(ところ)なり、是故(このゆえ)に八百万(やおよろづ)の神(かみ)等(ら)に命(めい)じて万物(ばんぶつ)の化育(くわいく)を掌(つかさど)らしめ、諸神(しよしん)各々(おのおの)其(その)職(しよく)を分(わか)ち、山沢よりは金・銀・玉・石・草木・禽獣等を出し、海河よりは真珠・珊瑚・龍蛇・魚鼇・薀藻等を出し、平地よりは百穀・百果・諸菜・諸絲・綿・紙・茶・油・薬物・染料等を出し、其他雲を作し、雨を降し、風を吹し、水を流れしむる等に至るまで、諸神皆各々皇祖太神の敕命(ちよくめい:みことのりの意)を奉りて、己が職司る所の物を発生し、以て国君の百姓を養ひ、性命を保ち、児孫を産ましむるの料(りやう)に給(つヾ)けて、恆(つね)に余裕あらしむ、故に上下の神祇(しんぎ)は大抵人世日用諸物の化育に勤労して、日夜片時も怠る事のなき者なり、是を以て国家に長たる者は、己れが領内の百姓を将ゐて其賚(らい:賜物の意)を拝受し、此れを採る法と、製造する術とを講明し、食物・衣類を始として、種々器具貨物等を作り、自国に用ひ余る物をば、此を他邦に運送し、有旡(ゆうき)交易の利潤を収め、境内富盛にして益々人民を和楽蕃息なさしめ、永く泰平ならしむる、此れを天地に代て蒼生を済ふと云ふ。国君能く右の如くすれば、上天の寵遇を受るに耻(はじ)ること無しと云ふべし、故に国家を領する者は、必ず経済の学を脩(おさ)めて国土を経緯するの術を精密にし、天工開物の法を講明して政事を勉強せずんばあるべからず、・・・」(佐藤信淵、『経済要録』)