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よろづ天道まかせで

天道の不均斉

格差社会といわれて久しいが、いつの時代も過度な社会的差隔の昂進が社会・国家を崩壊させる。

我国の前例としては、是等非常危局に際しては、必ず先ず卿相将士(きょうそうしょうし)、官人吏胥(かんじんりしょ)、自ら約して其俸禄を殺き、然る後民庶大衆に及ぼし、其官民両者の間に不斉の怨なからしむるのである。我輩は曾(かつ)て減俸問題の提起に依り司法官の同盟反抗を敢てせし以来、我国の国庫寄食者たる現任官より、恩給給与者の都(すべ)てに是等の辞譲的意気ある者を見ない。
 然り今我国の社会情況を通観すれば、困弊の極にある農村、之に次いで中小商工、之を官給生活者の夫(それ)に比すれば余りに差隔があり過ぎる、学校卒業青年の官吏企望多きも、正に之が為であろう、又官吏出身多き地方では、恩給金の送入が他の何の産業収入よりも多い処もある、又人類の成熟期たる三十五以上四十五程度の者にして恩給に衣食せる者の如きは、年を逐うて益す多く、又一二等級の資産収入ある人にして恩給を甘受せる者も固より尠(すくな)くない、之等のものを、彼の飢を逐い死を前にして、日々の常業に憔悴し、重税の公義務に服せる、一般民衆より見るときは、或は天道の不均斉を疑うであろう。人事の不公平を怨むであろう。之を疑い之を怨むに至れば、政治の威信は固より之を保持することはできぬ。かくなれば忠勇なる精兵の基地は識らず識らずの間に朽壊する、是れが古今の史例であり人事当然の約束である。

権藤成卿、「文武両関超克の史的公例」、「制度の研究」、第二巻第十二号、昭和十一年十二月号:カッコ内の読みは引用者挿入)