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よろづ天道まかせで

民業に寛暇

失業率が4.4%に跳ね上がった。職を探すのも困難で、職を失う人も増えている。

他方で、働く者も仕事の現場は追い立てられるように厳しい。

そんななか、権藤成卿の文章に触れる。

権藤が崇神朝の御誓誥(ごせいこう)に言及し、そこにある「民業を寛(ゆる)うせよ」の一文につき、下記のように解釈しているのは、いまでも大いに参照せらるべきと感じる。

権藤はこの言葉につき、「民業に寛暇(かんか)あらしむるの意なるは固(もと)より文字通りだが」、こう解釈できるといっていた。

・・・民衆の衣食を豊足(ほうそく)すれば随(したがつ)て寛暇ある生活ができる。・・・謂(いわ)ゆる衣食足りて礼節を知る、如何に教育が必要でも餓児(きじ)に向ひ忠孝を説くも感化知る可(べ)きのみである。凡(およ)そ人民に労働能率の限りを尽(つく)させて進歩向上を促し公序良俗を保(たも)たすることの不可能なるは周漢以来事実の考験(こうけん)明瞭なる所であつて、この寛暇を得て教化に向へば進歩向上は易々(いい)として其民族の隆昌を来たし、若(も)し之(これ)に反し其寛暇を以て遊逸曠怠(ゆういつこうたい)に堕(お)つれば衰滅敗頽(すいめつはいたい)の悲運を招くは言ふ迄もない。況(ま)して勤勉を強ひ努力を促がし労働に生命を削ぎ取り、寛暇ある生活は望まれぬ様にして教化を説き秩序を談ずるが如きは全くこの聖典を破却するものである。故に先ず民業を寛(ゆる)うして民衆ののんびりした心地よき寛暇に教化を施し・・・*1


この数十年、日本の労働現場は、労働力を減らし、労働分配率を減らし、一方で、正社員に過大な仕事を押しつけ、成果を強要し、「労働能率の限りを尽く」させ、他方で、不足する労働力は非正社員の使い捨てで補い、莫大な社内留保を確保してきた。「民衆の衣食を豊足」せしむるのではなく、ワーキングプアを強要してきたわけ。

権藤は「諸君にして若(も)し余暇を以て之を探究し今日の労働問題に参照せらるるならば頗(すこぶ)る卑益せらるる所があるであろう」と述べている。

「労働に生命を削ぎ取」っている状況は、まことに憂うべきと思う。我が国は崇神朝の昔より、グローバリズムを推進したような思考とは対極をなす思考のうちに成り立ってきたのだと、権藤を参照して思う。

*1:『君民共治論』、昭和7年、文藝春秋刊、10頁。