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よろづ天道まかせで

世間かしこく

最近は正規の雇用を得ている人も雇用に不安を感じるほどに経済状況は悪化しているが、これが非正規の、不安定雇用にあるものは一層の厳しさ。賃金は安く、いくつもアルバイトをかけもちして寝る間を惜しんでも、なかなか暮らしていけない人もいるときく。その折に、脳裡をよぎるのは、井原西鶴、『萬の文反古』第一巻、「百三十里の所を拾匁の無心」にある、こんな一文。

今程は一日暮しに朝の間は佛の花を売り、晝は冷水を売り、くれがたより蚊ふすべの鋸屑(おがくず)を売り、宿に帰りて夜は百を八文づつにて茶うりの紙袋つぎ申し、すこしも油断なくかせぎ申候へども、さりとは世間かしこく利徳をとらせず、日に一匁五分と申す銀子は中々まうけかね申候。去冬(きょふゆ)忰子(すいし)をまうけ三人口に罷成り、此渡世おくりがたく候。

まことに世間はかしこく、なかなか稼がせてくれない。人間の値打ちがかくも安いのかと思わされる。朝、昼、夕方、夜と、花を売り、冷水を売り、蚊ふすべ(ふすべとは燻す意味かな)をうり、百作って八文の紙袋を作って、と西鶴の描く世界も大変だが、同様の現実を現代にもみる。そんな経済社会、なんとかならんか・・・

とりわけ子をもつ家庭が「渡世おくりがたく候」では困る。